アニサキス:土谷医院 なま魚の虫にご用心‐アニサキスのはなし
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このページの最終更新日 2003年05月28日

サバ、アジ、イワシ、イカなどを生で食べた後、数時間たって急に胃がキリキリ痛んでくることがあります。ジンマシンが生ずることもあります。こういうとき胃の内視鏡検査をすると、たいてい胃の粘膜のどこかに白い細長い虫(アニサキス)が食いついて、まわりが腫れてひどい胃炎を起こしています。胃袋以外にも、まれに小腸や大腸に食いつくことがあります。

 当院で検査して発見された胃アニサキス症2例の内視鏡写真です。
第1例
は60歳代の男性です。前日18時頃酢でしめたイワシを食べたところ、22時頃から嘔気・嘔吐があり、更に午前2時ころに胃の痛みを生じ、翌朝来院されました。当日の内視鏡写真です。(1)胃の上のほうから見下ろした写真ですが、黒い帯状()のところは急性胃炎で出血を起こしたところで、血が黒く固まっています。(2)胃の曲がり角を過ぎたところの前側の壁にアニサキスが食いついて、この部分が腫れ上がっています。矢印の先、細い糸のようなものがアニサキスの虫体です。(3)アニサキスはまだ生きていてとぐろを巻いています。

(4)アニサキスを生検鉗子(かんし)という器具でつまみ、胃壁から引抜いたところです。(5)(6)胃の曲がり角付近で、粘膜は腫れて厚くなり黒い凝血が付着したビランが見られます。アニサキス症ではこのように虫が食いついた部分だけでなく、胃粘膜全体が炎症で腫れあがっています。これは一種のアレルギー反応によって生じた炎症で、アニサキス症でジンマシンが生じたり 、まれにショックを起こしたりすることがあるのはこのアレルギー反応(即時型アレルギー反応)のためと考えられています。

 

第2例は発病時60歳代の男性です。前日19時ごろマグロの刺身を食べ、22時ごろから胃の痛みがあり翌日来院されました。この写真は胃角の前側の壁です。画面の中央に帯状の淡く赤くなったところがあります。このように帯状に胃炎が起こるのはアニサキスが針で布を縫うように胃粘膜を出たり入ったりすることを繰り返す(sewing)からです。この中に2ヶ所白い糸のような虫が食いついています()。
青い色素(インジゴカルミン)を散布して虫体がよく見えるようにしました。2匹のアニサキスがはっきりわかります。胃の壁に食いこんでいます。第1例同様、直ちに除去しました。

このように、内視鏡検査で発見された時にはほとんどの場合まだ虫は生きています。長さ1〜2cm、太さ1mm位のこの虫は、もともと魚の腸に住みついているのですが、魚が水揚げされてしばらくすると腸から腐ってくるので魚の筋肉に逃げ込むといわれています。それを人間が生で食べると上に書いたような症状を引き起こします。従って水から揚げてすぐにさばいてしまえば、このような事は起こらないことになります。「サバにあたった」といわれる症状の多くはこのアニサキスのためと考えられています。干物にしたり、加熱・冷凍するとこの虫は死んでしまいますが、冷蔵庫に入れただけでは生きているので、新鮮なものでも家で刺身にするときは注意が必要です。サバを酢でしめてもこの虫はしばらくは平気で生きているので、シメサバを食べたあとに起こる例も多いのです。同様にタタキ、すし、ヌタなど魚肉を生で食べる調理法では感染する可能性があります。最初にあげた魚以外にもハマチ,カツオ,タラ,ホッケ,ニシン,オヒョウなどでもアニサキス症の原因となることが知られています。内視鏡でこの虫を発見したら、直ちにつまんで取り除きます。 すると痛みも速やかに治ります。放っておくと1週間ぐらいは痛みが続くこともあります。当院では過去7年間に12件のアニサキス症が発見され、内視鏡で虫を除去しました。市内のスーパーで買ったアジやサバが原因と推定される患者さんもある一方、自分で釣った魚でアニサキスにあたったと思われる方もあります。先に述べましたように、水揚げしてすぐにさばいてしまえばこのようなことは起こらない筈なので、売っているお店の責任と言うわけにもまいりません。現在では生の魚が全国どこでも食べられるようになったので内陸部で見られることも稀でなくなりました。


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