服薬しているほうが元気で長生き!
−高脂血症治療薬 最終更新日 2010年10月12日
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コレステロールが高いと動脈硬化が進みやすく、狭心症や心筋梗塞などの病気を起こしやすくなることは以前から良く知られていました。では、コレステロールの高い人がお薬を飲んでコレステロールを下げた場合、はたして心筋梗塞などの病気を起こしにくくなるのでしょうか。

この疑問を解明するために、最近相次いで数千人を対象とする大規模臨床試験が行なわれました。コレステロールの高い患者さんを、男女別や年齢などが同等になるように2つのグループに分け、一方にはコレステロールを低下させる薬を、もう一方には見かけは同様で効果のない薬を投与して5〜6年間観察しました。このような、二重盲検法という厳密な方法で薬の効果を判定した結果、コレステロールを下げる薬を服用した患者さんの方が狭心症や心筋梗塞を起こしにくく、そして明らかに長生きすることが判明したのです。

豆知識:二重盲検法とは  性別や年齢、病気の重症度、検査値などを同等に分けた2つの集団の一方に、効果を判定しようとする薬(実薬)を、もう一方には見かけは区別できないように作った対照薬(上記のように効果のない薬のこともあれば、場合によっては同様の効能があることが判っている別の薬のこともある。プラシーボ(偽薬)とも呼ぶ。)を投与する。薬を飲む患者さんも医師もどちらの薬を服用しているかは知らされないのでこのように呼ばれる。語源は英語で double blind test。 この方法で2つの集団を比較すれば、患者・医師両者ともにその薬に対する先入観の影響を受けずに薬の効果を判定できる。現在の新薬の効果判定には必須の方法となっている。

コレステロールが高い人にとってはまさに病気になりにくく、長寿になる薬というわけです。このような薬は『スタチン系』と呼ばれるもので、日本のメーカーが世界に先駆けて開発し、その後次々に改良された薬が登場しています。『スタチン系』の薬は副作用が非常に少なく、コレステロールのなかでも特に動脈硬化をひきおこす悪玉コレステロール(LDLコレステロール)を強力に低下させますが、動脈硬化を防止する善玉コレステロール(HDLコレステロール)はほとんど低下させず、場合によっては少し増えることもあります。

ごく最近行われた、約5万人の日本人を対象とする臨床試験(J−LIT)でも、スタチン系の薬を服用してコレステロールを正常に保った方が心筋梗塞になりにくく、長生きするという結果が示されました。同時に、LDLコレステロールがあまり下がりすぎた人は(80mg/dl以下)かえって寿命が短くなるという結果も示されたのですが、その原因の多くは悪性腫瘍であることも明らかになりました。つまり、スタチン系の薬を服用してLDLコレステロールが極端に低下する人はすでに体のどこかに悪性腫瘍が隠れているかも知れないという訳です。スタチン系の薬が悪性腫瘍の原因ということではありません。いずれにせよコレステロールを正常に保っておいたほうが良いことには変わりありません。また、この臨床試験ではスタチン系の薬には重大な副作用は極めて少ないことも判りました。

当院でも『スタチン系』の薬を、毎月200人以上の患者さんに飲んでいただいております。定期的に血液検査を行いながら、最も長い方で10年間服用していただいておりますが、副作用で内臓や筋肉の障害を起こした例はこれまで一件もありません。スタチン系のある薬が海外で重篤な副作用(横紋筋融解症)が多発したため発売が中止されました。日本での常用量の5倍もの大量投与を行なったり、併用すると副作用が出やすい薬(ゲムフィブロジルという中性脂肪を下げる薬―日本では未発売)を併用してしまったことが関係しているようです。当院でこの薬を投与していた方には副作用は出ておりませんでしたが、発売中止に伴って別の薬に変更しております。

薬物以外の治療法

コレステロールが高いとき、食事療法や運動療法で正常になるのが最も望ましいことは言うまでもありません。特に肥満気味の方はカロリー摂取量が多いので、減量することが重要です。アルコールも立派なカロリー源ですから程々にしなければなりません。また動物性脂肪、つまり肉や牛乳の脂肪をとりすぎないように注意する必要があります。しもふり肉、サーロイン、ひき肉のように脂の多い肉はなるべく避ける必要があります。牛乳はカルシウム分に富む食品で、骨粗鬆症には勧められていますが、飲みすぎるとコレステロールが増える原因となります(毎日5本も飲んでコレステロールが上昇してしまった患者さんがいます)。貧血の治療の目的でレバーを沢山食べてやはりコレステロールが増えてしまった方もあります。身体に良いといってすすめられる健康食品の多くはカロリーがあり、思わぬところで太りすぎやコレステロール上昇の原因となることがありますので注意が必要です。夜食は食べた後にすぐ休眠状態になるため太りやすく、コレステロールも増えてしまいます。夜食を止めただけでコレステロールが下がった患者さんもおられます。

 運動療法もHDLコレステロールが増え、LDLコレステロールが減る効果があります。運動は空腹時を避け食後しばらくして行うのが良いのです。特殊な器具を必要としないウオーキング・ジョギング、サイクリングや水泳(泳げない人でも水中歩行はとてもよい運動です)などが勧められています。このような運動は一度に力を出すのではなく、20〜30分以上続けることができ、息の切れない運動(有酸素運動)です。適度の運動をすると、不思議なことに『むちゃ食い』をしなくなるといわれています。コレステロールだけでなく、血圧のコントロールにも有効であることがわかっています。コレステロールや血圧を適正にコントロールすることは動脈硬化の進行を抑えるためにきわめて重要です。

しかし、食事療法などの努力をしてもなかなかコレステロールの下がらないことが多いのも現実です。また人によっては体質的にコレステロールが非常に高くなりやすいために、肥満がなくてもコレステロールが高い方もあります。また正常になる程度の食事療法や運動療法をしようとすると食事が窮屈で楽しくないとか、運動を続けるのがとてもつらいという場合もあるかも知れません。必要なときには薬を上手に利用して健康に過ごしてゆきたいものです。

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