突然の呼吸困難-自然気胸
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このページの最終更新日 2016年06月01日

気胸患者さんの事例1:20台男性の患者さんです。3年まえから喫煙を始め、一日10本のペースで2年、20本で1年、最近では1日30本というかなりのヘビースモカーでした。来院する2日前、急に左の胸が痛み、急いで歩くと息が苦しくなりました。

 この時のレントゲン写真です。左の肺(向かって右側)に白い矢印で示したところをよく見ると淡い白い線が見えます。反対側にはこのような線は見えません。これは肺に穴があいて周囲に空気が漏れ、そのためにしぼんだ肺の縁が写っているのです。この線より上側の胸郭の中は肺はなく、空気だけしか存在しません。この程度の気胸は病状としては軽いほうです。 直ちに呼吸器専門病院に紹介し処置していただきました。

気胸とはどんな状態か?
 昔の自動車のタイヤをご存知でしょうか。現在のようなチューブレスではなく、タイヤの中にやわらかいゴムの浮き輪のようなチューブが入っていました(実際浮き輪に使いました)。タイヤの外側の硬い部分が胸郭(肋骨や筋肉)で中のチューブが肺に相当します。もしチューブに穴があいたとすると空気は外に漏れ、やわらかいチューブはしぼんでしまいます。このような状態を気胸と言います。胸部の刺傷などで肺に穴があけば気胸(外傷性気胸)になります。上のたとえで言えばタイヤに釘が刺さった状態です。これに対して、このような外的原因がなくて生ずる気胸を自然気胸と呼んでいます。肺に気腫性嚢胞(きしゅせいのうほう、bullaブラ)または胸膜下嚢胞(きょうまくかのうほう、blebブレブ)と呼ばれる壁の薄い小さい袋のような病変が出来、これが破れて起こるものが自然気胸の大部分の原因です。気胸になると空気を吸い込もうとして胸郭を広げても肺はふくらみません。破れた肺は、程度はさまざまですがしぼんでしまいます。空気が入って行かないと酸素を充分取り入れることが出来ません。呼吸が苦しく息切れがします。呼吸が苦しいという症状のほかに、『息がうまく吸い込めない』という自覚症状がしばしば出現します。

気胸患者さんの事例2:60歳台の男性でやはりヘビースモーカーです。来院の2日前、突然胸が苦しくなりその後咳が止まらず、さらに息苦しくなってきました。来院された時は待合室から診察室に入ってくるだけで息が切れてしまうくらいの呼吸困難でした。この時の動脈血酸素飽和度は92%、動脈血酸素分圧に換算すると60mmHgで正常時の6割位に低下していました。これでは呼吸が苦しい筈です。

 この時のレントゲン写真です。画面左側に矢印で示したところに写っている白いものは右側の肺がしぼんで小さくなったものです。ここより上側の部分が反対側に比べて黒く写っているのは本来ここにあった肺がしぼんでしまい、胸郭の中が空になってしまったからです。これに対して反対側(写真では右)の上の方には細いスジ状の影が何本か見えています。これらは肺の血管の陰影で、肺がふくらんでいることがわかります。さらにこの写真では心臓も少し左(画面では右)に押されています。右側の胸腔内圧が左側より高くなったためです(正常の状態では胸腔内圧は陰圧です)。この患者さんも直ちに呼吸器専門医に受診していただきました。

恐ろしい緊張性気胸
 穴のあき方によって空気が漏れる一方になる場合があります。空気を吸ったとき肺から空気が胸郭に漏れ、吐き出したときには戻らないということを繰り返していると片方の胸腔に空気がどんどん溜まって、肺が完全にしぼんでしまうだけでなく心臓なども反対側に押されてしまう状態になります。緊張性気胸といって呼吸はとても苦しく心臓の働きも弱ってしまう緊急事態です。このような場合直ちに胸腔に管を入れて空気を抜く必要があります。第2例目はこのような緊張性気胸になりつつあった状態です。

気胸はどのように治療するか
 まず皮膚から胸腔に管を入れ、胸腔内にもれた空気を抜く処置(脱気)を行ないます。これで肺がふくらみ、空気の漏れが自然に止まれば一応治癒したことになります。非常に軽い気胸であれば、そのまま観察していると空気が吸収されてしまうこともあります。しかし、脱気しても肺がふくらまない場合は孔をふさぐために手術を要します。気胸と同時に血胸(胸腔内に出血すること)が生じた場合も手術が必要になることがあります。また、気胸の原因となる上述の気腫性嚢胞が多数存在する場合には、このような肺の部分の切除を行なうこともあります。内視鏡(胸腔鏡)でこうした手術を行なう方法もあります。

ヘビースモーカは注意
 自然気胸は背の高いやせ型の男性に多いといわれています。しかし自分の生まれ持った体格は致し方ありません。自然気胸の原因となる気腫性嚢胞、胸膜下嚢胞とも肺胞が破壊されることによって生ずるもので、喫煙はこれらの原因となります。この病気になる方は喫煙者が多いのです。タバコの害はいまさら改めて申し上げるまでもありません。ぜひ禁煙を実行したいものです。タバコを止めようとするとニコチンの禁断症状でうまく行かない場合、健康保険が利用できる禁煙補助薬が有効なことがあります。


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