高血圧症―あなたに合った治療は?
メディカルコラムの目次に戻る  最終更新日2016年06月01日 

目次
1.降圧剤の種類と特徴
現在国内で使われている主要な降圧剤についてその特徴や作用機序などを説明します。
2.高血圧症の非薬物療法
薬物以外の高血圧の治療法。高血圧症の患者さんに実行していただくと大変有効です。 
3.血圧の自己測定
ご自宅で血圧を測定していただくことが高血圧の治療に大いに役立ちます。白衣高血圧症、仮面高血圧症とは?

1.降圧剤の種類と特徴
現在国内で使われている主要な降圧剤についてその特徴を説明します。カッコ内は代表的な商品名。(太字は当院で採用)
1.カルシウム拮抗薬(シルニジピン、アムロジン、ノルバスク、アダラート、
2.ACE阻害薬(イミダプリル、レニベース)
3.アンギオテンシン受容体拮抗薬(アジルバ、ニューロタン、ディオバン
4.β遮断薬(ビソプロロール、カルバン、テノーミン
5.α遮断薬(デタントールR、ミニプレス

6.利尿薬ラシックス、ルプラック、フルイトランナトリックスアルダクトンA、セララ

7. レニン阻害薬ラジレス

(1)カルシウム拮抗薬(カルシウムチャンネル阻害薬):血液中のカルシウムイオンは動脈壁の平滑筋を収縮させる作用があります。カルシウム拮抗薬はこのカルシウムのはたらきを抑え、動脈(細動脈)が広がって血液が流れやすくなり血圧が下がります。初期のカルシウム拮抗薬は作用が急激で効いている時間が短かったため、1日に何回も服用しなければなりませんでしたが、最近のカルシウム拮抗薬は1回服用するだけで1日効果が持続し、副作用も非常に少なく使いやすくなりました。現在日本で最も多く使われています。血管が拡張するので脳、心臓、腎臓など重要な臓器の血流に悪影響が出にくい薬です。当院ではカルシウム拮抗薬を毎月およそ180人の患者さんに服用していただいております。副作用で中断しなければならなくなった方は今までに一例もありません。

(2)ACE阻害薬:この薬の効き方の説明はちょっと複雑で長くなります。腎臓からレニンという物質が出ています(腎臓の血液の流れが減ると多く出ます。これが血圧を維持するメカニズムの一つです)。このレニンがアンギオテンシノーゲンという物質に作用するとアンギオテンシンTという物質に変り、さらにこれが肺にあるアンギオテンシン転換酵素(Angiotensin Converting Enzyme:略してACE)の作用でアンギオテンシンUに変化して血圧を上昇させます。ACEの働きを阻害すればアンギオテンシンUが出来なくなり、血圧が下がるという訳です。この薬は血圧を下げるだけでなく、動脈硬化や心臓肥大、蛋白尿をおさえる効果があり、また心不全にも有効です。副作用として100人に5人位の頻度で空咳が出現します。当院で採用しているイミダプリルは空咳の副作用が少なく、ACE阻害薬の中では使いやすい薬です。高齢者の嚥下性肺炎の予防効果があるとされています。

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(3)アンギオテンシン受容体阻害薬:ARB:ACE阻害薬のところで説明したアンギオテンシンUは末梢血管を収縮させたり、副腎皮質からアルドステロンというホルモンを分泌させ、塩分を貯留させるなどの作用で血圧を上昇させます。ARBはこのアンギオテンシンの作用を抑える効果があります。ACE阻害薬に見られる空咳などの副作用がなく、他にも目立った副作用がないので使いやすい薬です。ACE阻害薬同様、動脈硬化や心臓肥大、蛋白尿をおさえる効果があります。当院では毎月およそ200人の患者さんに服用していただいております。                                                      
(4)β遮断薬:カテコルアミン(アドレナリン、ノルアドレナリン)のβ作用を遮断することによって血圧を下げます。脈拍が遅くなり心臓の収縮力が弱くなります。高血圧で脈の速い人、あるいは緊張すると脈が速くなって血圧が上がるような方に適しています。気管支喘息のある人には使わないほうが良い薬です。もともと心臓が弱っている人にも注意して使う必要がありますが、β遮断薬には速すぎる脈を落ち着かせ、心臓の酸素消費量を減らすなどの作用もあるので、少量を心不全の治療にも使用することがあります。

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(5)α遮断薬:カテコルアミン(アドレナリン、ノルアドレナリン)のα作用を遮断することによって血圧を下げます。末梢血管の抵抗が少なくなり、β遮断薬の逆に脈拍が早くなります。インスリンの効き目を良くする(インスリン抵抗性を改善する)作用もあるので、糖尿病があって血圧の高い方や、もともと脈の遅い方に適しています。
(6)利尿薬:降圧薬の中では歴史の古い薬です。腎臓から尿に排泄される塩分(ナトリウム)を増やし、血液中のナトリウムを減らし、循環血液量が減ることによって血圧が下がります。塩分摂取量の多い場合には特に適しています。

サイアザイド系利尿薬は利尿剤のなかでも古くから使われています。尿酸や中性脂肪が増える、血液中のカリウムが低下する、糖尿病が悪化する、などいろいろな副作用が現れることがあり、以前ほどには使用されなくなっていましたが、ごく最近米国で行なわれた大規模臨床試験の結果、その効果が見直されつつあるところです。上記のARBとの合剤も発売されています。

ループ利尿薬という種類の薬は腎臓の遠位尿細管という部位に作用して尿量を増やし血圧を下げる薬です。カリウム低下などの副作用がサイアザイドより軽くなっています。

スピロノラクトン、およびエプレレノンという利尿薬はアルドステロン拮抗薬と総称され、血液中のカリウムを低下させずむしろ増やす作用があり、ループ利尿薬の作用を増強し副作用を軽減させるので心不全を伴う場合などに併用されることがあります。

(7)レニン阻害薬:降圧薬の中では最も新しい種類の薬です。腎臓から分泌されるレニンは血圧を上昇させますがこの作用を直接遮断することによって血圧を低下させます。上記ACE阻害薬、ARBとともにレニン関連薬と総称されています。ARBと併用することによって蛋白尿を減少させる作用があります。

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2.高血圧の非薬物療法
薬物以外の方法で血圧を下げる治療のことで、全ての高血圧の患者さんに試みるべき治療です。

1.減量 2.減塩 3.適正な飲酒 4.運動 が有効と考えられ、5.脂質代謝改善(高脂血症の治療) や 6.禁煙 も間接的に有効と考えられています。

(1)減量:肥満者は太っていない人と比べると高血圧の頻度が2〜3倍高くなるといわれています。太っていると糖尿病が悪化しやすく、明らかな糖尿病でなくてもインスリンの効き目が悪くなるため、過剰なインスリンが分泌されるようになります。その結果、交感神経の緊張が高まり、体内に塩分貯留を来たしやすくなるなどさまざまな理由で血圧が上昇すると考えられています。太っていても血圧が高くならない人もあるのですが、血圧が高くて太っている方は減量したほうが血圧は下がりやすくなります。

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(2)減塩:塩分を多く摂取すると血液の浸透圧を正常に維持しようとして水分を多く摂取することになります。水分が血管内に貯留し循環血液量が増加します。その結果血圧が上昇します。塩分を減らすことは普段の塩分摂取量が多い日本人の場合、非常に重要です。味噌汁はなるべくうす味にするか、澄まし汁に変えます。塩分の多い漬物を食べ過ぎないことも大切です。醤油やソースを食品にかける習慣はぜひやめたいものです。
  

(3)適正な飲酒:アルコールを摂取しすぎると普段の血圧も上昇してきます。適度のアルコールは緊張を和らげるなどの作用もありますが、二日酔いするほど飲むと翌朝の血圧は必ずと言ってよいほど上がっています。アルコール自体カロリーがあり、太る原因となります。酔うと食欲が亢進し、つい食べ過ぎてしまいがちです。酒のつまみにもカロリーがあって塩分も多く、意外なところでカロリーと塩分過剰になってしまうこともあります。

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(4)運動:一度に力を出すのではなく、20〜30分以上続けることができ、息の切れない程度の運動(有酸素運動)が血圧のコントロールに有効です。特殊な器具を必要としないウオーキング・ジョギング、サイクリングや水泳などが勧められています(泳げない人でも水中歩行はとてもよい運動です)。週に3日以上実行したいものです。くわしいメカニズムはよく分かっていないこともありますが、運動によって普段の血圧が下がってきます。運動は体重のコントロールや次の項目の脂質代謝(高脂血症)の改善にも有効です。ただし、血圧があまりに高い場合は行なわないほうが良い場合もあります。医師にご相談ください。

(5)脂質代謝(高脂血症)の改善:コレステロールや中性脂肪が多いと動脈硬化が進み血圧が上昇する原因となります。高脂血症の治療には食事療法、運動療法が重要です。最近は副作用が少なく非常に有効な薬があります。メディカルコラムの高脂血症の治療もご参照ください。

(6)禁煙:タバコは動脈内皮を傷つけ、悪玉コレステロールを増やすなどさまざまな原因で動脈硬化を促進させます。タバコは肺癌や食道癌を誘発するだけではありません。ぜひ禁煙したいものです。ニコチンの貼り薬も禁断症状を和らげ禁煙を補助してくれる有効な手段です。

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3.白衣高血圧症と仮面高血圧症ご自宅で血圧を測る意味は?

 白衣高血圧症という言葉をご存知ですか。診察室高血圧症ともいって、診察室や検診会場で医師や看護師など白衣を着た医療従事者の前に出ると血圧が極端に上昇してしまう現象です。このような患者さんの場合、こうした特殊な条件で測った血圧を基準に薬を投与すると、普段の血圧が下がり過ぎることになります。したがって、患者さんご自身が一番リラックスできる条件で測った血圧を参考にして血圧をコントロールするのが良い訳です。ところで白衣高血圧症と考えられる方はそのままにしておいて良いのでしょうか?緊張する場面で非常に血圧が高くなる方は、あまり上昇しない方に比べて緊張することによって血圧が過度に上昇してしまうと考えられています。一般的に高血圧症は最初のうちは一過性の血圧上昇を繰り返し、次第に高い値に固定していくことが多いのです。そのため、白衣高血圧症と思われる人の中に将来本当の高血圧症に発展していく方が隠れていると考えられております。特にご両親ご兄弟に高血圧の患者さんがおられる方、糖尿病、肥満、高脂血症などのある方、検診で時々血圧が高いと言われている方などは、知らないうちに普段の血圧も高くなっていることがあります。若い頃血圧が低かったから大丈夫と油断はできません。ぜひ日常の血圧を測定されることをお勧めします。

 仮面高血圧症(早朝高血圧症)と呼ばれるのは早朝には血圧が高いのに、医療機関を受診する時間になると正常血圧になるため高血圧に見えない現象で、『隠れ高血圧』とも呼ばれます。一般に血圧は起床直前から直後に高く就寝前が低くなります。心筋梗塞や脳梗塞の発病は早朝に多いのはこの早朝高血圧症に関係があって早朝の血圧をコントロールすることはこれらの病気の発病を予防するために重要と考えられています。

 最近、デジタル式の正確に測れる自動血圧計が市販されるようになり、どなたでも簡単に家庭血圧を測っていただけるようになりました。これを参考にしながら高血圧を治療をしている方が増えております。このようにして普段自分の血圧を測定して血圧手帳などに記録しておくと、平常の血圧がわかるだけでなく日常生活の中で血圧を上昇させる原因は何かが良くわかるようになります。例えば前日夜更かしをしたとか、お酒を飲みすぎたとか、最近塩分をとりすぎたとか、興奮していたといったような、『血圧に悪いこと』は何か、あるいは減塩、減量、運動など効果で血圧が落ち着いてきたなどということが実感できます。また、上記の仮面高血圧症で就寝前の血圧は十分に下がっているのに早朝の血圧が高いときには、場合によっては降圧剤を就寝前に服用していただくこともあります。このような服薬のタイミングや降圧薬の種類や服薬量の調整には日常の血圧を正確に知って判断する必要があります。血圧を毎日なるべく一定の時間に測定して記録していただくことが重要です。家庭測定を測定し始めた時は数値が安定しないことがありますが、血圧を測ることに慣れて緊張せず自然体で測っていただけるようになると本当の血圧が分かります。血圧計の正確さを前もって一度チェックしておくと安心して使用していただけます。同時に血圧計の正しい使用法も説明致しております。血圧手帳も差し上げておりますので、ご希望の方はお申し出ください。

 自動血圧計には上腕(肘から上)で測るもの、手首で測るもの、指で測るものがありますが、誤差の少ないのは上腕式の血圧計です。本来、血圧は上腕で測定した値を基準にしています。手首や指で測るものは簡便ですが残念ながら正確ではありません。特に動脈硬化や腎臓病などの場合、上腕の血圧との隔たりが大きくなることが分かっております。(メーカー自身が『上腕式の血圧計の補助としてお使いください』と説明書に記載しているくらいです。これからお買いになる方はぜひ上腕式の血圧計をお求めください。

4.血圧の正常値は?:最近、人間ドック学会から「高血圧の基準値」が発表され、少なからず混乱をきたしています。これはスーパーノーマルと称する健康な高齢者の血圧を基準に決められたもので、これらの方々が過去にどのような血圧であったかはか不明です。一方、現在基準とされている高血圧学会が定めた血圧の基準値は大規模な疫学的、統計学的調査に基づいて将来の脳血管障害や虚血性心疾患の発病を可能な限り減らすために最低限どこまで下げればよいか、という数値が示されています。家庭血圧の基準値は最高135oHg、最低85oHg未満です。

 


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