痛風と尿酸
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このページの最終更新日 2016年06月30日

ある痛風の患者さんの病状からお読みください。
 20歳代の男性の患者さんです。
アルコールはほとんど飲まない方です。仕事が多忙で立ち仕事が長く続いた翌日、右足の親指の付け根が痛くなり、腫れてきました。来院されたときは靴もはけないくらい腫れと痛みがありました。この時の尿酸値は11.5mg/dlと異常に高くなっていました。体内で尿酸が出来るのを抑制する薬(アロプリノール)と消炎鎮痛剤を服用していただき1週間程で痛みと腫れは消失し、仕事にも支障なくなりました。お尋ねしたところ、ご家族にも痛風の方が多く家系的な影響が強いと考えられました。その後アロプリノールの服用を続け、尿酸は正常値を保ち、関節の痛みは起こっていません。

血液中の尿酸が増えすぎた状態を高尿酸血症と呼んでいます。尿酸が増えすぎると血液中に溶けていることが出来なくなり(尿酸は37℃では7mg/dl以上で血液中で飽和状態になります)、関節に尿酸が尿酸ナトリウムの結晶としてたまります。これが原因となって急性関節炎を起こした状態が痛風発作です。尿酸が増加する原因はいくつか知られていますが、体質的に尿酸が高くなる理由は大多数の場合不明です。

尿酸の元になるプリン体の代謝異常の詳細 ちょっと込み入った話です。遺伝情報をつかさどっているDNA、RNAは総称して核酸と呼ばれます。核酸の成分にプリンという物質があります(お菓子ではありません、念のため。)。プリンを含む物質をプリン体と呼びます。これらが代謝されて生ずる最終産物が尿酸なのです。細胞が壊れたときそのDNA、RNAが分解されてアデノシンまたはグアノシンという物質を生じます。アデノシンからはイノシン→ハイポキサンチン→キサンチンを経て尿酸が生じ、グアノシンからグアニン→キサンチンを経て尿酸が生じます。そして尿酸は腎臓から尿中に排泄されます。尿酸の名前の由来はもともと尿の中から発見されたことによります。尿酸はたとえて言えば人体の産業廃棄物のひとつといえるかもしれません。 ところで、ハイポキサンチンと グアニンからは必要に応じてHGPRTと略称される酵素の働きでそれぞれイノシン1リン酸とグアノシン1リン酸という物質に戻り、再びDNA、RNAの合成に利用される代謝経路(サルベージ経路)が存在することが知られています。これは産業廃棄物のリサイクルに相当する代謝経路です。先天的にHGPRTの働きが弱く、このリサイクル経路がうまく働かないために尿酸が増えてしまう非常にまれな代謝異常の病気(レッシュ-ナイハン症候群)が知られています。そのほかにもまれな代謝異常の病気で尿酸が高くなることが知られています。しかし、最初に書きましたように一般に良く見られる高尿酸血症は原因が良くわかっていないものがほとんどです。また、痛風の患者さんの90%以上が男性ですがこの理由も良くわかっていません。

食品と尿酸

食物中のプリン体は体内に吸収されると上記の代謝経路に入って来て尿酸が出来ます。肉類、レバー・モツなどの内臓、魚卵(アンキモ・イクラ・シラコなど)を食べすぎると食品中の核酸が体内に吸収され、血液中の尿酸が増える原因になります。イワシのような丸ごと食べる魚も内臓を一緒に食べてしまうので要注意です。尿酸が高いといわれた方は第一にこのような食品を出来る限り控えていただく必要があります。またアルコールを摂取すると尿酸が高くなります。アルコールは分解されるとき乳酸を生じます。乳酸は尿酸が腎臓から尿に排出されるのを抑制するので体内に尿酸が蓄積されます。またアルコールによってプリン体の一種アデニンの代謝が亢進して尿酸を生ずる結果、尿酸が増加することが分かっています。アルコールのなかでもビールには尿酸の原料となるプリン体が多く含まれているため、アルコール量の割には尿酸が高くなります。もっと具体的に言えば、焼き鳥や焼肉、ホルモン焼きにビールといった取り合わせは痛風にとって最悪の組み合わせということになります。

高尿酸血症による内臓の障害

尿酸が高いことは単に関節の炎症をおこすだけにとどまりません。痛風腎と呼ばれている腎臓の機能障害は昔からよく知られています。尿酸が腎臓の組織に蓄積しておこる間質性腎炎、および過剰の尿酸によって生じた腎結石が原因で腎臓の働きが低下します。痛風の患者さんの三分の一に明らかな腎機能障害が現れる前でも軽い蛋白尿が見られます。尿酸を低下させる治療が第一です。痛風患者さんには腎機能障害のほか動脈硬化症高血圧脳血管障害高脂血症(特に中性脂肪が高くなるW型)などを合併しやすく、また高尿酸血症によって冠動脈硬化ー虚血性心疾患がおこりやすくなる事もわかっています。

高尿酸血症と痛風の治療

第一に血液中の尿酸を減らさなければなりません。痛風の専門家の学会(プリン・ピリミジン代謝学会)では最近高尿酸血症・痛風の治療について『6・7・8のルール』を発表しました。血液中の尿酸濃度の正常値は7mg/dl以下、8mg/dlを超えたら治療開始、治療目標は6mg/dlというものです。尿酸を下げるには上記の尿酸を増やす食品、アルコールを出来るだけ減らします。(ちなみにールには銘柄によって異なりますが、100mlあたりおよそ5〜15mgのプリン体が含まれているといわれています。ブランデー、ワイン、ウイスキー、焼酎はけた違いに少なく100mlあたり0.5mg以下、日本酒ではおよそ1mgです。最近プリン体を減らした発泡酒も販売されています。しかし、上述の如くアルコール自体が血液中の尿酸を増加させますので、たくさん飲んでよい訳ではありません。また、尿酸が尿に排泄されやすくするために水分を十分摂ること、尿をアルカリ性にする食品(野菜・海草)の摂取を勧めます。それでも目標に達しなければ薬物療法を行ないます。アロプリノールという薬は尿酸生成過程のハイポキサンチン、キサンチンから尿酸が生ずる過程を抑え、尿酸を減らします。最近登場したフェブキソスタッ腎臓への負担が軽く、腎機能が低下して尿酸が上昇した場合にも使いやすい薬です。ベンズブロマノンという薬は腎臓から尿酸の排泄を増やし血液中の尿酸を減らします。尿をアルカリ性にして尿酸を排泄しやすくするする薬(クエン酸ナトリウム、クエン酸カリウム製剤:商品名ウラリットを使用することもあります。これらの薬剤を単独であるいは併用することによって通常尿酸は確実に低下させることが出来ます。既に腎臓結石が存在するときはアロプリノールや尿アルカリ化剤を用います。痛風発作が起こったときは、尿酸を低下させると同時に痛みを軽減させなければなりません。コルヒチンという薬は痛風発作の特効薬として昔からよく知られています。この他に非ステロイド系消炎鎮痛剤を内服や外用で用います。尿酸が高くなるのは上述の通り遺伝的要因が非常に強いため、痛風の痛みがなくなってしまったからといって病気自体が治ったわけではありません。服薬を中断すると容易に再発を繰り返します。定期的に血中尿酸値や腎機能などを検査しながら治療を継続することが重要です。痛風には高血圧を合併することが多いのですが、サイアザイド系利尿降圧薬はそれ自体で尿酸を増やす作用があるため、尿酸が高い場合は注意が必要です。また腎機能障害を伴う場合ACE阻害薬は投与しないほうが安全です。
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