予防接種の対象になっている疾患の解説
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このページの最終更新日
2019年2月27日
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ポリオ:エンテロウイルスの一種のポリオウイルスが経口感染して起こります。ウイルスがリンパ組織で増殖し中枢神経に侵入します。脊髄の運動神経細胞(前角細胞)に炎症を起こすので急性脊髄前角炎(poliomyelitis anterior acuta)とよばれます(「ポリオ」の名の由来)。この結果、手足が麻痺して動かなくなり、筋肉が萎縮して細くなります。延髄の呼吸中枢が冒され呼吸麻痺が生ずる場合もあります。わが国を含めて、先進国では予防接種が行なわれた結果この病気はほとんど見られなくなりました。ポリオの生ワクチンはこのような功績があったわけですが、稀にポリオの予防接種に使用される生ワクチンで2次感染を生ずることがあり、現在不活化ワクチンに切り替える方向で検討されています。
ジフテリア(diphtheria):ジフテリア菌の飛沫感染(咳などで空中に放出された菌を吸入することによる感染)により広がります。2歳から5歳くらいの幼児に好発します。のどに偽膜という一種のかさぶたのような膜ができます。このために気道が塞がって窒息することがあり、気管切開を必要とする場合もあります。後遺症として心筋障害、神経麻痺(嚥下障害、声帯麻痺、手足の運動麻痺、眼筋麻痺など)、腎障害などが知られています。治療にはジフテリアの抗毒素血清、ペニシリン、エリスロマイシンが使用されますが、予防接種を行なって罹患しないに越したことはありません。この病気も予防接種のおかげで現在ほとんど見られなくなりました。ジフテリア(diphtheria)の頭文字が三種混合ワクチンの略称DPTのDです。
百日咳(pertusis):百日咳菌の飛沫感染で流行します。夜間に連続性の激しい咳が出て、息を吸い込むとき甲高い音が出るのが特徴です。この病気の抗体は胎盤を通過せず、母親の抗体をもらうことが出来ないため新生児でも発病することがあります。エリスロマイシン、テトラサイクリンが有効です。三種混合ワクチンの略称DPTのPです。学校保健法では特有の咳が消失するまで登校を禁止する規定になっています。
破傷風(tetanus):土壌の中に存在する破傷風菌が外傷部位に感染して発病します。この菌は酸素が十分存在すると増殖しにくい「嫌気性菌」で、不潔なままで塞がってしまった傷や、酸素が存在しても増殖する「好気性菌」といっしょに混合感染した場合は特に感染しやすいのです。開口障害から始まる全身の筋肉の痙攣が特徴で、致命率が高い恐ろしい病気です。 現在でも屋外作業中の傷、交通事故などで感染する危険は十分あります。傷に土が入っているような場合は十分洗浄・消毒する必要があります。三種混合ワクチンの略称DPTのTです。
麻疹(はしか)(measles):パラミキソウイルスの一種の麻疹ウイルスの飛沫感染によって生じます。発病3日目までの熱が解熱した後、耳の後、頚から始まる発疹が出現し再び発熱します。麻疹はこのような2峰性の発熱が特徴です。麻疹は不顕性感染がほとんどなく、感染するとほとんど確実に病気の症状があらわれます。また、脳炎、肺炎、中耳炎など感染症の合併が起こりやすいので注意が必要です。学校保健法では解熱後3日までは登校を禁止する規定になっています。生後半年位までは母親からもらった抗体があるため感染しません。免疫のない人が患者さんに接触した場合、5日以内に麻疹免疫グロブリンを注射すれば、発病を予防したり症状を軽くすることが出来ますが、予防接種が最も確実な予防法です。最近大学生など若い方々に麻疹が流行しています。これは5歳から24歳までの人の麻疹の抗体保有率が低いためと考えられています。そのため平成20年4月から中学1年と高校3年の時期に麻疹および風疹の予防接種が5年間の時限措置として行われることになりました。
風疹(三日ばしか)(rubella):風疹ウイルスが飛沫感染することによって発病します。発熱とほぼ同時に顔面から全身に広がる発疹を生じます。耳の後のリンパ腺が腫れる特徴があります。風疹は幼児期の感染もさることながら、妊婦さんの感染により胎児に白内障、難聴、心臓奇形など(先天性風疹症候群)を生ずることがありこの予防も重要な問題です。学校保健法では発疹が消失するまで登校を禁止する規定になっています。風疹も麻疹と同様年長児や成人に流行しているため平成20年4月から中学1年と高校3年の時期に麻疹および風疹の予防接種が5年間の時限措置として行われることになりました。
日本脳炎(Japanese encephalitis):コガタアカイエカが媒介するウイルスによって夏季に流行します。発熱、頭痛、嘔吐、意識障害などを生じ三分の一が死亡する恐ろしい感染症ですが、最近日本国内ではきわめて発生率が低くなり、予防接種による合併症の方が多くなったため、希望接種のみになっています。。
BCG(結核予防接種):結核は最近増加の傾向があり注意が必要です。咳、発熱、寝汗、だるさなどがなかなか軽快せず、レントゲン写真をとって判明することも多いのです。風邪かと思っていたらなかなか症状が消えない時など医療機関にご相談ください。結核患者さんの世話をしたり、近くにいた方も健診をお受け下さい。
流行性耳下腺炎(おたふくかぜ)(mumps):ムンプスウイルスの感染によって起こります。患者さんの唾液によって飛沫感染します。両側または片側の耳下腺が腫れて発熱します。無菌性髄膜炎、脳炎、睾丸炎などの合併症をおこすことがあります。成人の感染は一般に症状が重くなります。学校保健法では耳下腺の腫脹が消失するまで登校させない規定になっています。
インフルエンザ(influenza):インフルエンザウイルスが主として上気道(鼻、のど)に感染することによって、急激な発熱、咽頭痛、頭痛、体の痛みなどを生じます。肺炎や脳炎等の合併も起こりうるため、油断できない病気です。インフルエンザウイルスにはA,B,C,3種類の型がありますが、A型が最も大流行の原因となりやすいことが分かっています。学校保健法では解熱後2日を経過するまで登校させないことになっています。
水痘(みずぼうそう)(varicella):水痘のウイルスは帯状疱疹のウイルスと同じものです。このウイルスが感染して10日から2週間くらいで頭痛、発熱、だるさなどが現れ、2〜3日後に最初は斑状の発疹を生じこれがすぐに水疱になります。多少かゆみがあります。水疱は順次カサブタになって行きます。全てがカサブタになれば感染力はなくなります。学校保健法でもこのように全てがカサブタになるまで登校させないことになっています。なお、成人してから出現する帯状疱疹はこのウイルスが神経細胞に潜伏していて、免疫力が低下したときに発病するものです。現在、アシクロビルという抗ウイルス薬があり治療も容易になっていますが、髄膜脳炎などを合併することがあります。
A型肝炎(hepatitisA):この病気のウイルスは腸管から、つまり飲料水や食物を介して感染します。従って衛生状態の悪い時代や地域にしばしば発生します。日本人でも衛生状態が良くない時代に育った50歳台以上の人は高率にこのウイルスに対する抗体を持っています。つまり過去に感染して免疫を持っているのです。しかし若い世代の人はほとんど抗体を持っていません(このあたりの事情はピロリ菌とよく似ています)。免疫のない方が東南アジアなどに旅行して不用意に生水を飲んだり、生ものを食べたりすると感染する危険が大きいのです。日本国内でも生の牡蠣(カキ)などで感染する場合があります。A型肝炎は発熱が特徴で、発熱が最初の症状ということがしばしば見られます。倦怠感、食欲不振、嘔気、黄疸、肝腫大などを起こしますがウイルス性肝炎のなかでも最も予後がよく、劇症肝炎になることは極めて稀で、慢性化することはありません。
B型肝炎(hepatitisB):かつて血清肝炎と言われたように、この病気は血液中のウイルスが直接体内に入ることによって感染します。最も代表的なものは輸血です。医療従事者の針刺し事故、不潔な器具による注射(例えば覚せい剤の自己注射)、刺青、性行為などで感染します。症状はA型肝炎同様倦怠感、食欲不振、嘔気、黄疸、肝腫大などですが、B型肝炎は劇症肝炎になって致命的な結果となることがあります。また、慢性化することがあります。B型肝炎ウイルスは出産時に母児感染を起こします。そのため、このウイルスを持っていて特に感染力が強い状態(HBe抗原陽性)の母親から生まれた新生児には、出生直後にHB免疫グロブリンとHBワクチンを注射します。この方法でほとんどの母児感染を防止できます。献血された血液はこのウイルスの有無を検査していますので現在では輸血による感染は非常に少なくなりましたが、まれに感染を起こすことがあります。