内視鏡:土谷医院

苦しくない内視鏡検査をめざして

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このページの最終更新日 2016年06月01日

  内視鏡検査(胃カメラ)は、とても苦しいという声を耳にします。実はそんなに苦しいものではないと私(院長)は思っています。現時点では、食道や胃・十二指腸の検査で内視鏡検査に勝る方法はないという考えが大勢です。この検査に対する無用の恐怖心を少しでも軽減させ、一人でも多くの方々に苦痛の少ない内視鏡検査を受けていただきたいと考えております。
ここでは、当院で行っている内視鏡検査の方法をくわしく解説します。多少専門的な内容に踏み込むことがあります。ご不明の点は何なりとお尋ねください。

1.検査の説明と同意:検査を受けることを患者さんによく納得していただけるよう目的や理由を説明します。
2.検査台にあがってから:全身をリラックスさせるために呼吸法などを説明します。具体的にはゆっくり吸い込んだ息を全身の力を抜きながら長くゆっくりと吐き出します。特に肩から指先の力を抜いていただくことが重要です。吐き切ったらちょっと一休みして体の力が抜けているかどうか確かめてから息を吸うといった感じです。このような呼吸を繰り返していると全身の力が抜けてきます。
3.のどの麻酔:当院では、ほとんど全ての患者さんに、局所麻酔のスプレーでのどを麻酔しています。1回目は舌根部からのどの奥に4〜5回スプレーし、10秒間待ってから飲み込んでいただきます。最初は薬剤の刺激で咽の奥がビリビリしますが、すぐ薬が効いて来てのどの奥がはれぼったくなったような変な感覚になってきます。2回目も同じようにスプレーしますが、10秒たったら飲み込まずに吐き出していただきます。1回目の麻酔で飲み込み(嚥下反射)がうまく行かなくなっているため、気管に入ってひどくむせてしまうことがあるからです。


咽頭(のど)麻酔の方法について :ゼリー状の麻酔薬(キシロカインビスカス)をのどにためておく方法が最もよく行われています。これは簡便な方法ですが、のどの奥の内視鏡が接触する一番肝心な所に十分麻酔できない事が多いのです。この状態で内視鏡を挿入するとたいていの人が嘔吐反射(ゲー)を起こします。これは至極当然のことです。ゲーゲーしてしまうのは患者さんが悪いのではなく、麻酔が十分でないのです。ゲーゲーさせたら医師は患者さんにお詫びしなければならないと思います。舌の上にちょっとスプレーして飲み込んでいただくだけでは決して十分な局所麻酔はできません。もちろん、ビスカスでもうまく麻酔できれば良いわけですから、スプレーにこだわる必要はないのです。ビスカスを脱脂綿につけてのどの奥に塗る方法で麻酔しておられる先生もいらっしゃいます。これもとても良い方法だと思います。ごくまれに、のどが非常に敏感でスプレーのビリビリする刺激がとてもつらい方がいらっしゃいます。このような場合はまずビスカスでのどを麻酔し、次にスプレーで麻酔することがあります。


4.患者さんの姿勢:左を下にして横になり、ひざを軽く曲げて前に出し右ひざを台につける姿勢になります。頭部は前に突き出した姿勢にします。上手にこの姿勢をとっていただくには、消化器内視鏡学会雑誌に鹿児島の原口先生が発表しておられる以下の方法が有効です。

まず患者さん自身のおへそを見るつもりで頭を前に十分に曲げていただき、次に後頭部を前に向かって押し出しながらあごを出す姿勢になっていただくのです。このような姿勢になると、口から食道までが最もなだらかな曲線になり、楽に挿入できます。(*日本消化器内視鏡学会雑誌 41巻4号 1999年4月 p986−992


5.鎮静剤の使用:検査を楽に受けていただくために少量の精神安定剤(マイナートランキライザー)を使用します。内視鏡を挿入する直前にジアゼパム(商品名:セルシン)を通常2.5mg静脈注射します。体格の良い男性や、お酒に強いと自認される方にはもう少し多めに注射することがあります。また体格の小さい人やご年配の方ではもっと少ない量にし、場合によっては使用しないこともあります。この程度の量ではしばらくの間意識がもうろうとする程度で完全に眠ってしまうことはありません。この薬には筋肉の緊張をとる作用もあり、全身の力がぬけて楽に検査が受けられます。しかし、内視鏡検査の麻酔の主体はのどの麻酔です。鎮静剤はのどの麻酔の補助として少量使用すべきものと考えております。全く意識がなくなるくらい大量に鎮静剤を使うと嘔吐反射も止まってしまいますが、検査中呼吸が弱くなったり、検査後足がふらつくなどの危険があります。また検査終了後に長時間目が覚めず、検査結果の説明を聞いてもよく覚えていなかったり、などといろいろと不都合なこともあります。呼吸の状態を知るために血液の酸素の量(酸素飽和度)をモニターしながら検査を行っています。(上記の『意識がなくならない程度の鎮静』(意識下鎮静法 "conscious sedation")は多くの内視鏡専門医が推奨しています。*消化器内視鏡 第12巻 第6号 2000年 p664-673) 

6.内視鏡の挿入:内視鏡を咽頭(のど)の壁に沿って静かに挿入し食道の入り口に達したら、喉頭(のどぼとけ)の後ろ側に回り込むように挿入します。以前は食道の入り口に内視鏡を押し当てて患者さんに飲み込む動作をしていただいたのですが、東海大学の幕内先生推奨される上記の方法を用いるようになってから飲み込むときの患者さんの異和感がずいぶん軽減された様です。食道の入り口に達するまでにのどが動いたり、患者さんがゲーゲーしてしまう時は明らかに麻酔が不十分です。また、食道に入ってからゲーゲーしてしまうのも麻酔が十分でありません。このような状態で検査を続行しますと嘔吐反射が繰り返され、患者さんを苦しめてしまいます。スコープを抜いて麻酔しなおすとほとんどの場合嘔吐反射がおさまり落ち着いて検査を受けていただけます。のどを麻酔してあっても内視鏡が入ってくるとのどに太い棒が入っているような感じがすることがありますが、空気の通り道に影響はありません。あわてずに肩、首、のどの奥の力を抜いてのどを広げるような気持ちになってゆっくり呼吸していただくと楽に検査が受けられます。
*消化器内視鏡 第1巻 第1号 1989年 p88−91
7.検査の進行:検査中は内視鏡は静かに動かし、ストレスを与えないようにします。胃の中を観察するには、空気を入れて胃をふくらまさなければなりません。検査中におなかが張るのは少し我慢していただく必要がありますが、必要がなくなったらなるべく空気を抜いて楽になるように心がけています。検査中に嘔吐反射が起こったら内視鏡を動かさず、患者さんに深呼吸をして力を抜くようにお願いしています。内視鏡検査の最も重要な目的は胃癌や食道癌の早期発見です。ゲーゲーしないで検査を受けていただくことが小さい病変を発見するのに極めて重要です。ゲーゲーしていると胃が十分ふくらまず、ひだの間に隠れた小さい病変を見逃すことになりかねません。何度も繰り返しますが、ゲーゲーしてしまうのは患者さんが悪いのではないのです。また、単に『力を抜いて,楽にして』といってもゲーゲーしてしまっている患者さんにはとても難しいのではないでしょうか。前に述べましたように検査が始まる前に呼吸の仕方、力の抜き方を具体的によく説明し理解していただくことが重要です。検査中にのどに溜まった唾液を不用意に飲み込むとむせてしまうことがあります。首を軽く左に向け唾液が自然に流れ出るようにしていただきます。

8.経鼻内視鏡について

 最近苦痛の少ない内視鏡として鼻から挿入する内視鏡が話題になっています。 利点は舌の奥を圧迫しないので嘔吐反射が起こりにくく、検査中も会話ができるなどです。欠点は鼻腔も麻酔しなければならないこと、柔らかい鼻粘膜を傷つけ出血を起こすことがある、内視鏡が細いため画像がやや劣ること、などです。当院では経鼻内視鏡も常時行っています。ご希望の方はお申し出ください。

関連ページ:胃癌の早期発見と内視鏡 ピロリ菌と潰瘍 逆流性食道炎 もご覧下さい内視鏡検査は電話で予約を承ります。


土谷医院 富士宮市小泉454−1

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